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台風15号からの新建築コンセプト‼️「柔よく剛を制す」

2019/10/08   カテゴリー:

2019年7月から始まった農地での多目的仮設空間の建築実証実験。3回目の打ち合わせとなる9月27日は、いつものメンバーに加えて、現役大学生の井上さんと、このコラムを書いている筆者の計6名が東京・大手町にある「AgVentureLab」に集った。

 

新たな素材の登場で、可能性がもっと“膨らむ”

 

「先月提案したものとはガラッと変わりますが」と言いながらウエノアトリエの長谷川さんが企画書を広げると、目に飛び込んできたのは絵本に出てきそうな、遊び心あふれる形状の建物。
※前回の打ち合わせについてはコラム『一級建築士から見えた農に生える「ワーキングハウス」建築素材!!』を参照。

「建物が安定するためには、放物線を描くような形で、出入り口は同じ大きさにするのが良いけど、つまらないでしょ」とウエノアトリエの堀越さんが笑う。ほかにも全国や世界の膜でできた建物をいくつか見せてもらったが、どれも面白い。

「空気を入れた膜を放射状に曲げ、それぞれの先端を基礎に固定します。膜をつぎはぎしていけば、大きさも形状も自在に設定できますよ」と長谷川さん。多目的仮設空間に必須のフレキシビリティも十分クリアしていそうである。

 

課題を細分化し、メリットデメリットを確認

 

続いて懸念点の洗い出しと対策を話し合う。上がった懸念点は以下の通りだ。

 ①強風、降雪、台風など悪天候への対策
 ②柔らかい地盤への固定方法
 ③誰でも参加できるワークショップ、施工性
 ④コスト
 ⑤今後の展開、将来性、運搬

 

2019年9月上旬に関東を直撃した台風15号が、コラボワークスの拠点がある印西市も含め、千葉県内の建物に甚大な被害を及ぼしたことを考えると、①は最もホットで重要な検討事項である。

しかし頑丈に作れば良いというものでもないらしい。例えば木造建築は確かに丈夫だが、建物を支えられるだけの強固な基礎が必要となる。そうすると手間がかかるだけでなく、専門的な知識も必要となり、「誰でも気軽に設置できる仮設空間」の意義から逸れてしまう。
仮設空間の建築においては、強度と組み立ての容易さの両立が重要なのである。

膜は実際に建築資材として用いられているため、基本的に雨や衝撃への耐久性も問題ない。2方向に開いている出入口は風の通り道となる。また、膜でできた柔らかい建物は、吹く風を上手にいなすことができる。基礎も建物自体が軽いので簡易なもので十分だ。

「台風のように風が強いときは、そもそも建物をたたんでしまえば良いんです。膜ならそれができます」と堀越さんは強調します。

建物が軽いという点は②もおのずと解決する。農地のような柔らかい土壌に重い建物を立てると、土台が沈んでしまい、建物自体が傾く恐れがあるからだ(これを不同沈下という)。

このプロジェクトで大切にしていることは、老若男女、建築の経験の有無を問わず、誰もが組み立てに参加できる「ワークショップ型の建築」であるということ。空気を入れるだけの膜建物なら、作業の危険性もなく、工具も必要ない。③は十分クリアできる。「エアーポンプで空気を入れるんだったら、子供でも手伝えますね!」と井上さんは笑顔で話した。

 

採用されるのは膜か、ニューフェイスか

 

それでも、膜が採用されるにはまだまだ越えなければならない壁がある。将来性とコストだ。
コラボワークスの龍太さんの発案で始まったこのプロジェクトは、天候にかかわらず外で調理やワークができる空間を作ることを目指している。膜建物の中で火を使う調理は果たして可能なのだろうか。

膜の色を検討している時には、開放感を確保するために透明を基調にするべきという意見と、それでは室内が暑くなりすぎてしまうのではという意見が対立。

「熱に強い素材や、日射をある程度カットできるような機能を備えた膜もありますが、もちろんその分コストは上がります」と話すウエノアトリエの二人。コスト算出を次回開催時までにやってもらうことになり、この日は解散となった。

10月24日(金)の打ち合わせで、いよいよデザインが確定。課題を克服した膜素材が再登場するのか、それともまったく新しい提案が出てくるのか。次回も楽しみである。

(柿内香那/株式会社マイナビ/『マイナビ農業』担当)

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書き手:高城つかさ 1998年生まれ。家庭の事情で大学を中退後、2018年7月より本格的にライターとして活動開始。「言葉と人生」を掲げ、さまざまな人の人生を言葉という手段で届ける仕事をしています

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